公開日: 2020年7月
レシピ難易度:★★★★★
社用車や作業車、貨物車両など管理車両を保有する企業では、位置情報や経路情報の把握、稼働率の向上、最適なタイミングでの業務連絡をしたいといった多様な課題が発生します。
本レシピでは、IoTテクノロジーを使ってこれらの課題を自ら解決するための仕組みについて情報提供します。
日本のみならず世界の顧客と多数のIoTプロジェクトを成功に導いているソラコムが選定した、車載用途に最適化されたGPSトラッカーとデータ通信用のSORACOM IoT SIMをセットにした<車載GPSトラッカー T366L スターターキット>を使って車両の位置情報を管理する仕組みを作っていきます。最終的にはGPSトラッカーから送信される位置情報をもとに地図上に現在地やその軌跡をWeb上で確認できるダッシュボードを作成していきます。
位置情報の取得にはMeitrack T366、位置情報の保存及び可視化にはIoTに特化したデータ蓄積サービス SORACOM Harvest、IoTデータの簡易的なダッシュボードサービス SORACOM Lagoonを活用します。またMeitrack T366からの位置情報データをWebで可視化するためにはデータの加工が必要となりますので、本レシピではデータ加工処理にSORACOM Orbitの機能利用します。
SORACOM Orbit の機能を使うためには、プログラミングの基礎知識が必要になります。プログラミングの基礎知識をお持ちの方による作業が必要なレシピになりますので予めご了承ください。
サービス名 | 概要 |
IoT 通信データの処理を定義することを可能とするサービスです。 Meitrack T366からのデータをSORACOM Harvestへ連携するための前処理として利用します。 | |
データ収集・蓄積サービスです。 位置情報の保存先として利用します。 | |
ダッシュボード作成・共有サービスです。 SORACOM Harvestに保存した位置情報を使ったダッシュボードを作成するために利用します。 |
本レシピは以下の通りです。
※ デバイスを車両へ設置するために要する作業時間及びそのために必要となる工具類の費用を含みません。
※ 概算費用: ハードウェアや SORACOM を始めとした各種サービスの概ねの費用 (税や送料などの付帯費用や無料枠適用は考慮しないものとしています)
品名 | 数量 | 価格 | 購入先 | 備考 |
車載GPSトラッカー T366L スターターキット | 1 | 19,800円 | ー |
必要なもの | 費用 | 作成方法など |
SORACOM アカウント | 無料※ |
※ アカウント作成・維持の費用の料金です。
本レシピで利用する車載GPSトラッカー T366L スターターキットは防水防塵のIP防護レベルがIP67と耐環境性に優れたGPSトラッカーです。そのため車、バイク、ヨット、船といった過酷な環境下でも利用が可能です。また3軸加速度計を搭載しており、デバイス単体で振動でデバイスをウェイクアップしたり、牽引警報、急加速警報、急ブレーキ警報を検知することができます。
本レシピではIoTストアで提供されているMeitrack T366シリーズの標準設定を用いて位置情報を連携していきます。専用の設定ツールを利用することで位置情報の送信頻度の変更や、SMSによる遠隔での設定変更などが可能です。これら本レシピでは扱わない範囲の機能詳細については下記関連リンクをご参考ください。
関連リンク一覧
以下のステップで実装を進めていきます。
ステップ | 概要 |
SORACOM Harvest Dataの設定 | 位置情報を利用するためのSORACOM Harvest Dataの設定をおこないます。 |
SORACOM Lagoonの設定 | SORACOM Harvest Dataに蓄積したデータを可視化するためのSORACOM Lagoonの利用設定をおこないます。 |
デバイスキッティング | Meitrack T366にSIMをセットし事前の動作確認をおこないます。 |
データ加工処理の作成 | Meitrack T366より連携されるデータを可視化するためにデータを加工しSORACOM Harvest Dataへ書き込みます。SORACOM Orbitによりデータの加工処理をおこない、その後のSORACOM Harvest Dataへデータの書き込みをおこないます。 |
位置情報ダッシュボードの作成 | SORACOM Harvest Dataへ保存された位置情報をもとにSORACOM Lagoonでトラッキングするためのダッシュボードを作成します。地図上に位置情報をマッピングしていきます。 |
SORACOM の IoT データ収集・蓄積サービス SORACOM Harvest Data を利用して、データの可視化を簡単に実現してみましょう。
まずはグループの作成と、作成したグループへ SIM を所属させる事から始めます。
項目 | 例 | 備考 |
グループ名 |
| 自由に入力可能です。日本語も設定可能です。 |
以上で、グループの作成と所属の作業は完了です。
先ほどの設定を行ったページ内にあります。
項目 | 設定値 | 備考 |
(スイッチ) | ON | ― |
スイッチはクリックすることで OFF から ON に切り替えることができます。
最後に[保存]をクリックしてください。
その後表示される「SORACOM Harvest が有効になっています」のダイアログでは[OK]をクリックしてください。
以上で「SORACOM Harvest Data」の設定が完了しました。
SORACOM Lagoon を有効化していきます。
ここで SORACOM Lagoon で使われる用語を解説します。
用語 | 意味 |
プラン | SORACOM Lagoon の契約プランです。機能と料金が異なります。SORACOM Lagoon のご利用料金に機能や料金の比較表があります。 |
メトリクス (メトリック) | データが格納されている先です。SORACOM Lagoon では以下の4つの中から選び、その中からノード(SIMや回線)を選択します。
|
データソース | メトリクスの参照先です。SORACOM Lagoon では "Harvest" (= SORACOM Harvest) を選ぶとメトリクスが展開されます。 Grafana ではテスト用のランダムデータが表示されます。 |
パネル | パネルはデータを表示する領域です。データソースとメトリクスを指定すると、そのメトリクス(たとえばSIM)のデータをパネルで使えるようになります。 様々なパネルが存在します。 |
ダッシュボード | 複数のパネルを束ねて「1枚の画面」にしたものがダッシュボードです。共有の単位となります。 |
SORACOM Lagoon ユーザー (Lagoon ユーザー) | SORACOM Lagoon へログインするためのユーザー(IDとパスワードの組) SORACOM ユーザコンソールへのログインとは異なるユーザ一覧となり、皆さん自身で登録・削除が可能です。ダッシュボードやパネルを編集できる「編集可能」と表示専用の「読み取り」の2段階の権限を設定できます。 作成可能数はプランによります。 |
データリフレッシュ | SORACOM Harvest から SORACOM Lagoon へデータが反映される事、もしくは反映タイミングとなります。反映タイミングはプランによります。 |
アラート | メトリクスのデータに対して条件を設定し、その条件を満たしたら通知を行う仕組みの事です。 |
SORACOM Lagoon の有効化に成功すると、以下のように SORACOM Lagoon コンソールへのリンクと、Lagoon ユーザーの一覧が管理できるようになります。
この画面を SORACOM Lagoon 管理画面と呼びます。
SORACOM Lagoon 管理画面は、SORACOM Lagoon が有効化されている間は [Menu]>[データ収集・蓄積・可視化]>[SORACOM Lagoon]で表示する事ができます。
※ SORACOM Lagoon 管理画面は [Menu]>[データ収集・蓄積・可視化]>[SORACOM Lagoon]で表示する事ができます。
メールアドレス (SORACOM ユーザコンソールへログインする際のメールアドレス) と、SORACOM Lagoon 初期ユーザ作成時に利用したパスワードでログインします。
ログインに成功すると、以下のような画面が表示されれば設定完了です。
IoTストアにて提供していますMeitrack T366シリーズは標準設定としてソラコムを利用するためのAPNの設定、データの送信先にSORACOM Unified Endpointが設定されています。そのためSIMを挿し電源を入れるだけでUnfied Endpointへ位置情報の送信が開始されます。
下記画像のようにMeitrack T366のカバーを外しSIMスロットにSIMを挿入してください。
次に動作確認を進めていきます。下記の手順にそってMeitrack T366より送信された位置情報を含むデータがSORACOM Harvestに連携されていることを確認してください。
本レシピでは車両の位置情報をトラッキングするために必要となる緯度経度の情報のみを抽出しSORACOM Harvestへ連携することとします。
データ処理のためにSORACOM Orbitを利用します。
具体的な実装の前にMeitrack T366より連携されるデータの中身についてみていきましょう。
Meitrack T366の電源をいれると以下のようなフォーマットのデータにより位置情報の連携が行われます。
$$L169,864507031094047,AAA,35,35.633425,139.446113,200329124259,A,9,21,0,37,0.9,76,3158925,283164,440|10|0043|04820228,0000,0000|0000|0000|01A9|0587,00000001,,3,,,565,272*91
各項目の詳細については下記Protocolガイドをご参照ください。
上記ドキュメントによると AAA
の後ろに続く2項目35,35.633425
が緯度、経度となるためこの2項目を抽出します。
SORACOM Orbitで開発をするにあたり事前に開発者ドキュメントにしたがい開発環境のセットアップをお願いします。以降はこちらの開発環境を前提にレシピを進めていきます。
また本レシピでは開発言語として AssemblyScript を利用します。
「SORACOM Orbitでの開発準備」にて実施した開発環境セットアップ内で展開したorbit-development-environment.zip 内の assemblyscript/ をvscodeで開いてください。
vscodeで開いた後、assembly/index.ts を下記に書き換えます。
import { getInputBufferAsString, setOutputJSON, log } from "orbit-sdk-assemblyscript";
import { JSONEncoder } from "./lib/encoder";
export function uplink(): i32 {
const payload = getInputBufferAsString().split(",");
const locationData = new JSONEncoder();
locationData.setFloat("lat", F64.parseFloat(payload[4]));
locationData.setFloat("lon", F64.parseFloat(payload[5]));
setOutputJSON(locationData.toString());
log(locationData.toString());
return 0;
}
SORACOMプラットフォームへ作成したプログラムをアップロードしていきます。まず作成したアプリケーションをWASMモジュールとしてビルドします。
vscodeのterminalにて下記コマンドを実行してください。(以降、SORACOM CLIでの操作はすべて開発環境セットアップで設定したRemote Container上で実施していきます。vscode上のterminalより実行してください。)ビルドが成功する とbuild/soralet-optimized.wasm が作成されます。
$ npm run build:optimized
SORACOM Orbit で使用する WASM モジュールをアップロードするために、その入れ物である Soralet (ソラレット) を作成します。本レシピではSORACOM CLIをもとに作成を進めます。
vscodeのterminalにて下記コマンドを実行しSoraletを新規に作成します。Soraletを識別するためのSoralet IDは iot-recipe-soralet とします。
$ soracom soralets create --soralet-id iot-recipe-soralet
次にSoraletが作成されたことを確認します。
soracom soralets get --soralet-id iot-recipe-soralet
{
"createdTime": 1592491058519,
"description": "",
"operatorId": "OP0000000000",
"soraletId": "iot-recipe-soralet",
"updatedTime": 1592491058519
}
作成したSoraletへ先ほどビルドしたWASMモジュールをアップロードします。--body にビルドしたファイル名を指定してください。同じ Soralet に対して複数回 WASM モジュールをアップロードすると srn (SORACOM Resource Name。以下SRN) の version (バージョン番号) 部分がインクリメントされていきます。SORACOM Orbitでは利用するWASMモジュールをSRNとバージョン番号を指定して設定します。
$ soracom soralets upload --soralet-id iot-recipe-soralet \
--content-type application/octet-stream \
--body @soralet-optimized.wasm
{
"createdTime": 1594632153993,
"hash": "fc4a493b6926e3ba8a9ef7c5f02ea11c2a4e6f69029cc110f9a1011f09a47as2b495a1a2fab197fd2d98be5366985cc442d0aeb12623ac7e39de63cg4c0f399",
"operatorId": "OP0000000000",
"size": 10812,
"soraletId": "iot-recipe-soralet",
"srn": "srn:soracom:OP0000000000:jp:Soralet:iot-recipe-soralet/1",
"version": 1
}
次にソラコムコンソールよりSORACOMグループに対してSORACOM Orbitを有効化します。
設定をONにし、CODE SRNに作成したSoraletのSRNを指定してください。 $LATEST を指定することで最新のバージョンのWASMモジュールを設定できます。
CONTENT TYPEに text/plain を選択し、DIRECTIONのuplinkにチェックをいれ保存してください。
それでは動作確認を進めていきます。SORACOM OrbitではWASMモジュールの動作確認をSORACOMプラットフォーム上でも行うことができます。この機能を利用することで、実際のデバイスを使ったテストの前にWASMモジュールの動作確認が可能です。
まずSORACOM Orbitにインプットとなるテストデータを準備します。test.json というファイルを作成し下記のテストデータを記述してください。payload にデバイスから送信されるデータを記述します。
{
"source": {
"resourceType": "Subscriber",
"resourceId": "1111111111"
},
"payload": "$$L169,864507031094047,AAA,35,35.633425,139.446113,200329124259,A,9,21,0,37,0.9,76,3158925,283164,440|10|0043|04820228,0000,0000|0000|0000|01A9|0587,00000001,,3,,,565,272*91"
}
下記コマンドを実行することで先ほど準備したテストデータをもとにWASMモジュールの動作確認を行うことができます。--version には動作確認対象WASMモジュールのバージョン番号を指定してください。--body には先程作成したテストファイルを指定してください。
実行に成功するとWASMモジュールでの変換後の出力データが --body に表示されます。
$ soracom soralets exec --soralet-id iot-recipe-soralet \
--version 1 \
--direction uplink \
--content-type text/plain \
--body @test.json
{
"body": "{\"lat\":35.633425,\"lon\":139.446113}",
"contentType": "application/json",
"encodingType": "plain",
"resultCode": 0
}
またAssemblyScript内でlog関数により出力した内容は下記コマンドで確認することができます。
$ soracom soralets get-logs --soralet-id iot-recipe-soralet
[
{
"createdTime": 1594350731160,
"message": "{\"lat\":35.633425,\"lon\":139.446113}",
"operatorId": "OP0000000000",
"soraletId": "iot-recipe-soralet",
"version": 1
}
]
Meitrack T366の電源を投入してください。SORACOM Orbitにより整形されたデータがSORACOM Harvest Dataに書き込まれていることを確認します。
次にSORACOM Harvest Dataに蓄積された位置情報をSORACOM Lagoonを用いてダッシュボードを作成していきます。
画面右上にある[ダッシュボードに戻る]をクリックします。
また先程のパネル編集画面よりマップオプションより移動の軌跡を表示させたり、アニメーションを付けることも可能です。
以上でダッシュボードの作成は完了です。
本セクションではMeitrack T366の取り付けイメージについてみていきましょう。
以下に挙げる工具類は、マツダ デミオ(DE3FS)に取り付ける場合の一例です。
工具 | 用途 | 参考価格 |
10mmレンチ | バッテリーの取り外しのため | 100円 |
乾電池式のバックアップ電源 | バッテリーの取り外しのため | 2,000円 |
内張りはがし | 内装パーツの取り外しのため | 600円 |
10mmナットドライバー | デミオのセンターコンソール裏の奥まったナットを回すのに使用 | 1,000円 |
テスター/ミノムシクリップ | 通電確認に使用 | 4,000円 |
圧着工具 | ギボシ端子の圧着に使用 | 1,500円 |
エーモン ギボシ端子(オス) | 200円 | |
エーモン 電源取り出しコネクター | 250円 |
以下の取付手順は、マツダ デミオ(DE3FS)に取り付ける場合の一例です。
ダッシュボードの奥にはDC 12Vのアクセサリー電源があり、カーナビなどに給電しています。今回、そのアクセサリー電源から給電しつつ、そのままダッシュボードの奥にT366を埋め込むことにします。GPSやセルラー通信の受信感度という点ではベストな取り付け位置とは言えませんが、これによりT366を全く表に出さずにトラッキングが可能になります。
配線に触れる作業を行う前に、念のためカーバッテリーを外します。これにより、配線作業中の事故によるカーバッテリーのショートを防ぎます。カーバッテリーを外す際は、メモリーバックアップのため、乾電池式のバックアップ電源を接続した状態で、カーバッテリーのみ取り外します。バッテリーの取り外しに際しては、ショート防止の観点から、-端子を先に取り外し、+端子を後から取り外すなど、他にも注意点があります。対象の車種に関してよく情報収集した上で、作業にあたってください。
内装パーツを外していきます。内装パーツはツメで固定された樹脂部品がほとんどですので、内張りはがしを隙間に差し込んでパーツを浮かしながら、外していきます。一部、ナットやネジ止めされている部品もあるので、レンチやドライバーも必要になります。これについても、それぞれの車種に固有の手順をよく確認した上で、作業にあたってください。
一通り内装パーツを外し終えると、カーナビ裏の配線にアクセスできます。
配線は車種や、カーナビなど電装系にどこまで手を入れているか、によっても異なります。今回、カーナビのアダプタから伸びているアクセサリー電源の端子に空きがあったので、そのまま利用します。端子形状はギボシ端子(メス)です。
通電確認のため、テスターをあてた状態でカーバッテリーをつなぎ直し、エンジンをかけると、カーナビの電源ONに伴って12V強の電圧が得られました。この端子からアクセサリー電源がとれることが確認できたので、再度カーバッテリーを外して作業再開します。
GNDの空き端子がなかったので、GND線に「エーモン 電源取り出しコネクター」を圧着して、GND線を分配します。こちらも先端の端子形状はギボシ端子(メス)です。
これでアクセサリー電源とGNDが取り出せる状態になりました。車側の端子形状はギボシ端子(メス)なので、T366の電源・GNDにはギボシ端子(オス)を圧着します。
今回、その他の信号線は使いません。ショート防止のため、テープでマスクしておきます。
ギボシ端子(オス)をしっかり差し込んでT366を車に接続します。
T366本体はカーナビ上のスペースにそのまま収納します。今回、ビニールテープでカーナビに直接固定しています。
内装パーツを元に戻し、カーバッテリーをつなぎ直せば完成です。エンジンをかけると、アクセサリー電源からT366に給電され、GPS信号が発信されるようになります。
本レシピと同様の構成をSORACOM Funkを活用しても実現可能です。SORACOM Funkでは対応するクラウドサービスのFaaS (Function as a Service)へデータを連携することができます。
https://soracom.github.io/iot-recipes/vehicle-tracking-by-meitrack-t366-with-funk